フランシスコ・タレガ:アデリータ (マズルカ)

フランシスコ・タレガ

ある伝説によると、曲名のアデリータとはスペインの王、アルフォンソ12世の内縁の娘、アデーラ・アイメリチに由来しているそうです。

音楽的にはフレデリック・ショパンによって確立されたロマン派スタイルを踏襲しているといえます。

ショパンは20歳の時に祖国ポーランドを離れてから二度と祖国の土を踏む事はありませんでした。彼は幼少期の記憶に自らの肉声とインスピレーションを求め、いくつかの新しい器楽曲形式を生み出しました。その一つに「マズルカ」が挙げられます。

このショパンの「マズルカ」は彼の祖国ポーランドの3拍子の伝統舞踊(フォークダンス) の中から、活気に溢れる「マズレク」と、ロマンチックで緩やかな「クヤヴィアク」、そして快活に回転しながら踊る「オベレク」を融合させ、クラシック音楽の様式に取り入れる形で新しい「マズルカ」を生み出しました。この一連の自我や民族意識に対する覚醒と、その表現法の流れはロマン派の特徴の一つと言えます。

タレガはルバートを伴い感傷的でメランコリックな音楽に合わせて踊られる「クヤヴィアク」を題材としてこのアデリータを作曲した様に思えます。

タレガの他のマズルカ作品と違い、このアデリータでは、マズレクとクヤヴィアクの共通の特徴である付点リズムを聞くことがほとんどない(曲の終わりから2小節目にたった一回だけ現れる)のが興味深いですが、これはタレガが舞曲としての特徴を文字通り取り入れる代わりにコンセプトとしてそれを音楽に内包させ、旋律の叙情性を優先したからではないかと思われます。前述した一回きりの付点リズムと、繰り返えされる2拍目のアクセントが組み合わされることで、この曲がマズルカであることをほのかに暗示している様に思えます。

タレガは民族音楽や民族舞踊を器楽曲の素材として様式化しつつクラシック音楽に取り込む、というショパンのアプローチを踏襲しつつ、ギターでしか味わうことができない魅力に溢れた名曲アデリータを生み出すに至ったと言えます。

音楽には美しい思い出を蘇らせる不思議な力があります。私の場合、このアデリータを演奏するたびにスペインに住むポーランド人の友人を思い出します。かつてアデリータを演奏した際、この友人は初めてこのアデリータを聞くことになるのですが、すぐに祖国のクヤヴィアクの響きに気付き、お互いびっくりしたことがあります。