クラシック・ギター製作家インタビュー: スチュアート・ミューバーン(イギリス)

本日のクラシック・ギター製作家はイギリスのスチュアート・ミューバーンさんです。

Q1. あなたの工房とその歴史についてお聞かせください

ナイアガラの滝生まれ。職業:工場従業員、鉱山労働者、ジャーナリスト、コピー・ライター、クリエイティブ・ダイレクター。
1966年にロンドンへ移住。1972年に本を参考に始めてのギターを製作。ギルドホール大学でギター製作を学び、最優秀の成績を修める。
1995年からフル注文。クラシック、フラメンコ、そしてスティール弦ギターを製作。

Q2. あなたにとって良い音のするギターとはどのようなものですか?またそれを獲得する為にどんな工夫をしているのですか?

良いギターとは力量のあるギターリストの手によって美しい音楽を生み出す能力を備えているものであるべきだと思います。これは、ギターは演奏し易く、低音弦から高音弦に渡り、最低音から最高音まで、バランスが取れている事を意味します。

しかし、良いギターとは何でしょう?これを定義する一致した語彙はありません。我々が聞く音、甘い、耳障りな、良く響く、鮮明な、明るい、不明瞭、分離、遠達性、反応性、などの単語は演奏家によってそれぞれ異なった意味合いを持つかもしれません。

ギターがどの様に機能するかを知る事が、音質を評価する上で助けになるかも知れません。弦が弾かれたとき、共鳴板上に振動が生まれ、それが空気を振動させます。この振動が我々が聴く音なのです。この音について重要な点が二つあります。音量と音質です。前者は計測することができますが、後者は出来ません。我々の耳が唯一、その音が好きかどうかを判断出来るのです。

ここで問題なのは、ギターがどの様に響くのかを聞く上で、演奏家はギターの真後ろという、正に相応しくない場所に座る事です。

では製作者はギターの音をコントロールする上でどのような事をするのでしょうか?

共鳴板

ギター製作家として様々なギターや木の音を聞く事にかなりの時間を費やしました。共鳴板を選ぶとき、板の中心から1/5下の複数の場所を指の関節で叩きます。もしそれが響けば、購入価値があります。

すぐに、最も良い共鳴板は細かい木目を持たない事を発見しました。広い木目はより開けた、響く音を生み出します。理由は木目が詰まっている木より軽いからです。堅い年輪の間の空間は木が吸い込んだ水分が染み込んでいて、小さな穴がたくさんあります。この材木を乾燥させると、それらは空隙となります。これは、弦が共鳴板を上下に振動させる力が少なくてすむ事を意味します。

ベイスギ(ウエスタン・レッド・シダー)はオウショウトウヒ(ユーロピアン・スプルース)より軽く美しい高音を生み出しますが、強く、そして速く演奏された低音が不明瞭になる欠点があります。

オウショウトウヒはギターのどの部位で弾かれても音の分離に卓越しています。 木材がかんなと紙ヤスリにかけられ、最終的な厚さ(約3mmから1mm以下)に仕上げられると、その木材の持つ響きの質が失われます。ギター製作家は共鳴板が歌う能力を取り戻す様に、何かをしなければなりません。

補強(力木による)

「lower bout(ギターの幅の最も広い部位)」のみが音を生み出す為に使われます。一般的に扇状又は格子状の補強に使われます。扇状の補強法は5又は7つの松や杉の力木を手を広げた様に配置します。格子状の補強法はカーボン・ファイバーでコーティングされた約1mmの厚さのバルサ材を十文字に共鳴板に配置します。

私はしばしば力木を湾曲させる事によって強度を増した扇状の方法を用います。それらを接着した後、表面板を叩いてみます。正しい音が返ってくるまで、部品を取り外したり付けたりする事を繰り返します。どのような音なのかを言葉で表現する事は不可能ですが、私はその音を聞けばすぐ分かります。

堅牢性

後板と側板の唯一の役目はギターの構造に堅牢性をもたらし、共鳴板をボディから隔離する事です。堅い後板や側板は弦の振動エネルギーのロスが少なくなる事を意味します。私は表面板と側板を結合する為に8mm×13mmの裏当てを、側板を補強する為に、12.6mm×6mmの力木を使用します。

Q5. 640, 628 や 615mm などのショート・スケール・ギターに於いて、弾き易さ、設計、音質や音量の観点から、あなたの考えを聞かせて下さい。また、手の小さい人や女性ギタリストの増加によってそれらショート・スケールの需要は伸びていますか?

現代のギターの標準的な弦長は650mmですが、実際は遊びの為に654mmあります。私は手の小さい人たちの為に、ショート・スケールのギターをいくつか製作しました。しかし、もしあなたが小さい手の持ち主で、コードやメロディを弾く為のストレッチが困難であれば、私は標準のギターの1フレットにカポを付けて演奏される事をお勧めします。理由は単純です。例えば、640mm、628mm又は615mm等のショート・スケールのギターはA=440を得る為の弦のテンションが低くなります。従って、ギターの音量が小さくなります。これを調節する為には、テンションの強い弦を使う必要がありますが、これでは本来の目的である弾き易さを犠牲にしてしまいます。標準のギターの1フレットにカポを付けると、テンションを変えることなく618.5mmのギターと同じ弦長になります。言うまでもなく、全ての音は半音高くなってしまいますが。また、別のギターに移りたいと思った時にも、標準サイズであればそれを売りに出す時に有利です。

Q6. 多くの読者がギターを色々と試奏していく内にますますどのギターが良いのか分からなくなってしまう様です。製作家の立場から、楽器店や工房でどのようにギターの音質や弾き易さをチェックしたら良いのか、アドバイスを頂けますか?

本当はそうであってはいけないはずですが、お店でギターを試奏するのはとても難しいです。もし可能なら、誰か別のギターリスト(達)に付き添ってもらって下さい。その人に演奏してもらえば、あなたはそのギターがどんな音なのか客観的に聞く事が出来ますし、その音や弾き易さなどの意見を彼らに求めることも出来ますから。試奏はギタ数本のみに限定し、あなたがそれぞれのギターの感覚になれるまで、十分に時間をかけてください。店の店員さんや経営者たちにプレッシャーを感じてはいけません。もし暗譜出来てないのであれば楽譜を持参して下さい。

ギターの音程が正しい事は大変重要です。デジタル・チューナーを持参し、音程が悪いと思えるフレットをチェックしてみて下さい。1弦開放弦のミと同じ音を、2弦、3弦、4弦、5弦で弾いてみて下さい。もし全てが同じ音程でなければ、恐らくサドルが正しい位置に配置されていないので、ギターは正しく調律出来ないでしょう。

大金をはたいて買ったギターの音程が合わないので、それを直してほしいと、何人かのプロの演奏家達が私のもとへ訪れました。物差しで指板を計ったところ、サドルのあそびが十分に調節されていない事がわかりました。修理する事はできますが、そのギターを購入した店に返却する事を勧めました。

Q8. ブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)などの木材がますます入手困難になってきていますが、それはあなたのギター製作や完成したギターの品質にどのような影響があると思いますか?

ギターで唯一重要なのは共鳴板のみです。ネックは通常セドレーラかホンジュラス・マホガニーです。裏板や側板で重要なのは堅牢性だけで、もし十分な大きさの木材が見つかれば、クルミ、インディアン・ローズウッド、カエデ、イチイ、ココボロ、果樹材(イチゴ、ナシ、プラム)などで作ることができます。私はギター製作家としての人生を全うするのに十分な材木の在庫を保有しています(1965年にCITES証明書と共に輸入されたブラジリアン・ローズウッドを含む)。

Q9. 21世紀に於いてギター製作というこの美しい伝統はどうあるとお考えですか?

新しい製作法を実験したり、もしかすると新しい材料や形状を導入したりしながらクラシック・ギターは進化して行くと思います。演奏家達は音を増幅する更なる方法を要求するでしょう。例えば、私は現在5つピックアップを備えたギターを製作しています。もしかしたら誰かがヴァイオリンのボウイングの様なサステインを持つギターを発明するかも知れませんし、ピアノの様な幅広い音程を持ったギターを発明するかも知れません。