クラシック・ギター製作家インタビュー: ホセ・アントニオ・フエンテス(スペイン)

今回のギター工房インタビューはスペイン、バルセロナのホセ・アントニオ・フエンテスさんです。

Q1. あなたの工房とその歴史についてお聞かせください

2004年にキューバへ旅行したのをきっかけに独学でギター製作を始めました。ギター製作を始める前には15年以上家具職人として働いていたので、木についてや木工についてはかなり良く知っていました。

私の始めてのギターは仕上がりの面では美しいものでしたが、音の方は改善の余地がありました。そこで、木の様な堅い材質の上を音がどのように作用するのかについて、じっくりと調査研究しました。

それから数年ほど一人で働いていたところ、パトリック・ホップマンズという引退した製作家に巡り会いました。彼はスパニッシュ・ギターの伝統的な製作法など色々な事を私に教えてくれました。私は自分の製作するクラシック/フラメンコ・ギターがスペインの伝統の延長線上にあってほしいと思いますが、時たまカーボン・ファイバーなどの新しい材質やカーシャ・シュナイダー他の設計した伝統的なものとは異なる力木の配置などの小さな実験もしています。

現在私はサントス・エルナンデス、ミゲル・ロドリゲス(コルドバ)、そしてマルセロ・バルベロの設計を基に製作しています。

Q2. あなたにとって良い音のするギターとはどのようなものですか?またそれを獲得する為にどんな工夫をしているのですか?

私にとって良い音のするギターとは、演奏した時に、それ以上の色々な事をギターが勝手にしてくれる様なギターです。つまり、品質の良く、人間の耳に心地よい、大量の倍音を発生させるギターです。どのような工夫をしているかですって?私はギター製作の為に使う材料の選択に非常に留意しています。特に表面板は大変重要です。表面板を、耐久性と柔軟性のバランスの最適な点まで薄くし、音を効率よく伝達する接着剤を使ったりしています。

Q3. 弾き易いギターを製作する事について考えをお聞かせください。そして、その為にどんな工夫をされていますか?

弾き易さに影響する要因は多数あります。表面板のテンション、弦のテンション、ネックの傾き、弦のテンションに対するネックの耐性、弦高など、全ての点で最適な均衡を保つ必要があります。

Q4. 伝統的なフレンチ・ポリッシュ(セラック・ニス)や新しい方法(ラッカー、触媒)などの仕上げの方法について、あなたの考えをお聞かせください。

私にとって最良の仕上げ方法は疑いなくフレンチ・ポリッシュです。ほとんど厚みが無く柔軟性があるので、木材が自由に振動するのを妨げません。短所としては、施行に非常に手間がかかる事、何時間もの作業時間、加えてとてもデリケートで簡単に傷がついてしまう点です。私の全てのコンサート・ギターはこの仕上げが施されています。

他の種類のギターには時たまニトロセルロースのニスを使います。柔軟性があり、塗料面が厚くなったり、ギター本体を台無しにする事が無いので、合成ニスの中で最も気に入っています。

ポリウレタンの仕上げは好きではありません。あまりにも硬質し過ぎ、木の振動を阻害すると思います。

Q5. 640, 628 や 615mm などのショート・スケール・ギターに於いて、弾き易さ、設計、音質や音量の観点から、あなたの考えを聞かせて下さい。また、手の小さい人や女性ギタリストの増加によってそれらショート・スケールの需要は伸びていますか?

数多くの640mmスケールのギターを特に手の小さい人たちや女性の為に製作しています。

650mmと比べて特に大きな違いは無いと思いますが、プランティージャ(型)のデザインと、弦のテンションが少し低くなるので、表面板のテンションにに多少の変更を加える事に留意する必要があります。

私は小さい手の持ち主なので、個人的には640mmのギターが好きです。 私はよくエレキ・ギターを弾くのですが、私の手に最もしっくりとなじむのはギブソン又は同様の628mmスケールのギターです。

Q6. 多くの読者がギターを色々と試奏していく内にますますどのギターが良いのか分からなくなってしまう様です。製作家の立場から、楽器店や工房でどのようにギターの音質や弾き易さをチェックしたら良いのか、アドバイスを頂けますか?

色々な良いギターを試しているうちにどれが良いのか混乱してしまうのは普通の事です。私のアドヴァイスは、試奏したと同時に購入を決定するという考えは捨てて下さい、という事です。決して3、4本以上のギターを続けて試奏しないでください。そして、試奏しながら、少しづつ順に候補を絞って行って下さい。特に各々の楽器が発する感情を汲み取って下さい。ギターの製作者を伏せて試奏するのはとても良い方法です。有名な製作者のギターだと始めから知ってしまうと、その先入観でそれほど有名でない製作家達のギターよりも良く聞こえてしまうからです。製作家の名前がそれほど知られていないお陰で、非常に良い楽器が大変リーズナブルな値段で見つかる事もしばしばあります。

ギターが見事に組み立てられたかどうか、仕上げの品質については、始めて見た時から明瞭に分かります。弾き易さについても試奏した瞬間に分かります。

Q7. 顧客に対してアフター・サービスはありますか? 特に、高額なギターの購入について心配している人たちも多いと思われるのですが。

私の全てのコンサート・ギターは、温度、湿度、取り扱いなど正しい状況下で使用された事を条件に、一生涯の保証がついています。私はギター製作に情熱をかけています。私の作ったギターは私の寿命より長い間この地球に残ってくれる様に意図しています。

Q8. ブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)などの木材がますます入手困難になってきていますが、それはあなたのギター製作や完成したギターの品質にどのような影響があると思いますか?

もう何年も前から、熱帯雨林地帯の過剰な森林伐採が原因で、高品質な木材を入手するのが困難な問題が続いています。しかし、FSC(森林管理協議会)認証によって管理、選択された非常に良い木材は入手可能です。

私は伐採が禁止されているハカランダは使いませんが、インド、アマゾンやマダガスカルのパロ・サントを用いており、非常に良い結果をもたらしています。

規制無しでは、数年のうちに仕事を続ける為に必要な木材が無くなってしまうでしょうから、こうして管理して行く事はとても良い事だと思います。

Q9. 21世紀に於いてギター製作というこの美しい伝統はどうあるとお考えですか?

スペインに於いて、一般的に熟練工によるギター製作の将来は、他の伝統的手工業と同様困難なものです。現在、深刻な経済危機に瀕しています。

ところが、熟練工が提供出来る品質を工場生産で得る事は不可能であると思います。すなわち、熟練工によるギター製作の将来は、いかに高品質で、世界に二つとして無いものを作る事にかかっていると思います。その音質と希少価値によって秀でた唯一の芸術作品を如何に製作していくか、ということでしょう。