クラシック・ギター製作家インタビュー:エンリコ・ボッテーリ(イタリア)

今回のギター工房インタビューはイタリア、ヴォゲーラのエンリコ・ボッテーリさんです。

Q1. あなたの工房とその歴史についてお聞かせください。

1980年にカリフォルニアの有名な製作家アーヴィン・ソモギに師事してスティール・ギター製作を始めました。

1987年にクラシックギターに転向し、アメリカの製作家リチャード・シュナイダーの革新的な製作法を学びました。

そして1994年にJ.L. ロマニージョスにスペインのクラシックギター製作を学び、それ以降スペインの伝統志向のクラシックギターを製作しています。アントニオ・デ・トレスやエンリケ・ガルシーア、ヘルマン・ハウザー一世、ホセ・ロマニージョス、デイヴィッド・ルビオのオリジナルの楽器を徹底的に勉強しました。

Q2. あなたにとって良い音のするギターとはどのようなものですか?またそれを獲得する為にどんな工夫をしているのですか?

まず始めに、良い楽器は変化に富んだ美しい音質を持っていなければいけません。音楽を支える深い低音と暖かくて、丸い、そして魅惑的に明瞭かつ伸びのある高音を兼ね備え、6弦間の均衡がとれている事が重要です。私は最高のヨーロピアン・スプルースと柔軟ながら頑丈なスペインの扇状の力木配置だけを表面板に用いる事でこれを獲得しています。

Q3. 弾き易いギターを製作する事について考えをお聞かせください。そして、その為にどんな工夫をされていますか?

私はあまり硬質過ぎない表面板を使ってギター製作をする様に努めいています。これによって弦の張りの強さを抑える事が出来ます。左手の快適性の為には低いアクション(弦高)とネックの形状や厚さもとても重要です。

Q4. 伝統的なフレンチ・ポリッシュ(セラック・ニス)や新しい方法(ラッカー、触媒)などの仕上げの方法について、あなたの考えをお聞かせください。

セラックをフレンチ・ポリッシュされたものがクラシックギターにとって最高の仕上げです。とても薄くて軽く、楽器の音に影響を与えない事に加え、木の美しさを引き立てる最高の仕上げだからです。更に、ほとんど毒性がなく、悪臭がしたり環境にとって有害でない事が挙げられます。

Q5. 640, 628 や 615mm などのショート・スケール・ギターに於いて、弾き易さ、設計、音質や音量の観点から、あなたの考えを聞かせて下さい。また、手の小さい人や女性ギタリストの増加によってそれらショート・スケールの需要は伸びていますか?

テンションのロスは影響を及ぼさない位微小なので、ショート・スケールの楽器はそれより長いスケールの楽器と同じ音量や音質を得る事が可能です。小さな手を持つ演奏者には疑う事無くそれを検討するよう提案します。私は最近ショート・スケールの注文を幾つか受けているところです。

Q6. ギターを設計/製作する段階である特定のブランド・種類・テンションの弦を考慮していますか?

通常、私は楽器が一つ完成した後にそれに最適な弦を探します(材質・テンション)。時々古い楽器のコピーを製作するときには、オリジナルの楽器にはガット弦が張られていた事を考慮しています。

Q7. 顧客に対してアフター・サービスはありますか? 特に、高額なギターの購入について心配している人たちも多いと思われるのですが。

私の楽器は一生涯の保証がついています。加えて、もしあなたが楽器に満足頂けなかった場合、あなたはその楽器を購入する義務はありません。いずれにせよ、受注した楽器を製作する前に顧客が何を求めているのかの確信を得るために可能な限りの情報を求めています。

Q8. ブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)などの木材がますます入手困難になってきていますが、それはあなたのギター製作や完成したギターの品質にどのような影響があると思いますか?

古くて乾燥した希少木材のストックが豊富にあるので、美的・音質の両面で私がそれぞれの楽器に適切だと考える材料を妥協しなくて済んでいます。

Q9. 21世紀に於いてギター製作というこの美しい伝統はどうあるとお考えですか?

恐らくこれからも高品質な楽器の需要はあるでしょうが、私が心配しているのは若い世代が携帯電話と安いヘッドフォンで音楽を聴きながら育っているので、音のクオリティーを愛する文化が失われている事です。音の美しさを本当に理解する為にはそれなりの訓練が必要なのです。