クラシック・ギター製作家:グレゴリー・バイヤーズ (アメリカ)

クラシック・ギター製作家:グレゴリー・バイヤーズ (アメリカ)

クラシック・ギター製作家:グレゴリー・バイヤーズ (アメリカ)
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今回のギター工房インタビューはアメリカ合衆国、フロリダのグレゴリー・バイヤーズさんです。

Q1. あなたの工房とその歴史についてお聞かせください。

私は30年前からギターを製作しています。始めの頃は、ジョン・ギルバートのアドバイスに加えて、ホセ・ロマニージョスの講習会を通じてギター製作を学びました。私は技術と直感的な伝統主義という2つの影響の間に私の工芸を発展させました。私は常に厳格な職人としての仕事、最高の弾き易さや音を求め、古い道具や製法と新しいもの両方を使っています。私は、デイビッド・ラッセルやデイビッド・タネンバウムからケヴィン・ギャラガー、レネ・イスキエルドやヨハネス・メラーに至るまで多くの素晴らしいギターリストが私のギターを使用してくれるという幸運に恵まれました。彼らや他の数々の演奏家達など、私の顧客が私の先生でもあります。

Q2. あなたにとって良い音のするギターとはどのようなものですか?またそれを獲得する為にどんな工夫をしているのですか?

私が目指しているのは、とても均一でサステインの長く、大変明瞭で深みのあり、それでいて暖かく暗い、大きな音です。反応が早く、それぞれの音を基音がしっかり支え、そしてビブラートや音色の両方で音を形作る事が容易である能力を探しています。それはホールの最後尾まで音が届くよう、必要な時にかすかな輝きが無いといけません。私は努力する事なく音が鳴って欲しいのですが、幅広いダイナミックレンジを稼ぐ為に力を込めた時にも十分なゆとりがあるべきです。私の作るギターはこれらの要素を十分に備えているかですって? おそらくそうではないかも知れません。しかし、これらが私がギターを製作する時に懸命に努力し、設計を決める時に留意している点です。これらの特性のいくつかはしばしば二律背反性を持つと考えられています。例えば、音量とサステイン、明瞭さと暖かさ等です。しばしばそれらの制限を克服する事が可能ですが、ある時は他の特性が犠牲になる事と引き換えにしなければいけません。好ましい全ての特性を備えたギターを設計・製作するという事は巧妙なバランスを取る仕事なのです。

これには経験と勘で対処しています。長い間左右対称・非対称の扇状力木配置を用いてきました。私はこのシステムで得られる伝統的な性格が好きです。近年は2組の扇状の力木をお互い格子状になる様に回転させた、いわゆる二重扇状格子構造とでも言えるものを用いています。これは、基本的なギターの音の性格を過激に変える事なく、真っすぐの扇状力木配置よりも表面板を均一に支えよう、というものです。

私が得ることができた功績の一つには「音程の良さ」があります。指板上のどこを弾いても正しい音程であるギターを持つ事は随分違います。私のシステムはそれを簡単に得る事を可能にしました。私がこの件について初めて出版してからもう20年くらいになりますが、世界中の多くのギター製作家達がこのシステムを継承しています。ナットとサドルのブレークポイントを弦毎に設定する事を伴い、一般的にナットの終わりの部分の指板を心持ち短く切り、サドルの典型的なセットバックをほんの少し減らします。

Q3. 弾き易いギターを製作する事について考えをお聞かせください。そして、その為にどんな工夫をされていますか?

私は傾斜した指板を使って製作しています。ギターの上部の表面板を後板方向へ曲げ、ネックを表面板より高くする事によってこれを可能にしています。これにより12フレットで15mmほど普通のギターより高くなっており、これが12フレットからそれ以高の部分ではるかに演奏し易くなっています。私は指板にねじりの他に、少しだけ丸みを持たせており、それが少し楽にセーハをすることを可能にすると共に、ブリッジでそれぞれの弦高がバラバラにならない様にしています。ネックの形は長年試行錯誤を重ねて導きましたので、ほとんどの演奏家にとって最適であると思います。

Q4. 伝統的なフレンチ・ポリッシュ(セラック・ニス)や新しい方法(ラッカー、触媒)などの仕上げの方法について、あなたの考えをお聞かせください。

私はギターの仕上げにフレンチ・ポリッシュを使います。主な長所は、まず極めて薄い、大変見栄えの良い結果を得ることができることです。他のラッカー等はもっと厚い仕上がりになる傾向があり、“コーティング” された音がします。フレンチ・ポリッシュの主な短所は引っ掻き傷がつきやすく、汗を伴った手や腕などの接触によって傷んでしまうことです。しかし、修復し、「リフレッシュ」させることも容易です。フレンチ・ポリッシュは、一人で営んでいる小さな工房でも特別な装備を必要とせず、安全に使うことができるという利点もあります。

Q5. 640, 628 や 615mm などのショート・スケール・ギターに於いて、弾き易さ、設計、音質や音量の観点から、あなたの考えを聞かせて下さい。また、手の小さい人や女性ギタリストの増加によってそれらショート・スケールの需要は伸びていますか?

私は標準の650mmスケールのギターを主に製作していますが、それに加えて630mmや613.5mmのショート・スケールギターも製作します。ギターリストの手の大きさは様々です。大きな手を持つ男性と小さな手を持つ女性の間では、指の長さや開き具合に優に25%もの開きが出てしまいます。それでも、650と613.5の違いは6%以下です。一般的に650に苦戦している人たちは645mmか640mmで十分克服できる、という話を良く耳にします。確かにそれらのスケールが最適に感じられる演奏家もいるでしょうが、私はそれより更に短いスケールの存在価値が過小評価されていると思います。650スケールのギターの1フレットにカポを付けてみて下さい。今あなたのギターは613.5スケールになりました。もしあなたが小さい手の持ち主で、650に苦戦しているのであれば、これを試してみて下さい。加えて、もしあなたの近所に製作家がいるのなら、弦と弦との間隔の狭いナットを作ってもらうと、更に快適になるかもしれません。(ナット上の標準の弦の間隔は約43〜44mmです。とても小さな手の持ち主は、そうですね、37mmの様に間隔を狭めることで弾き易さを高めることができるでしょう。 通常サドル側での間隔には変更を加えない方が良いでしょう。フリー・ストローク(ティランド奏法)に必要な弦の間隔は手の大小に関わらず一定だからです。
私はショート・スケールに大きな可能性に確信を持っており、パワーとヴォリュームが減少する事によって不当に過小評価されていると感じています。手の小さな演奏家にとって、ショート・スケールによって得ることの出来る弾き易さの恩恵は、感じられるどんな音量のロスよりも遥かに大きいでしょう。理論上、このロスは弦のテンションか共鳴箱の縮小によって起こります。より高いテンションの弦を使うことで、一つ目の障害は排除できますが、共鳴箱の大きさについては、常に大きければそれだけ音量も大きくなる訳ではありません。最大のボリュームを得る為に、それぞれの設計にはそれぞれに最適な共鳴箱の大きさや形があるのですが、より小さな箱は実のところ遠達性や音質を高めることがあります。小さいトレスやハウザー1世のいくつかはコンサート・ホールでかなり良く鳴ります。これらの寸法はショート・スケールのギターに簡単に応用することが出来ます。私の630と613.5スケールのギターは共に、約3〜5mmだけ周囲の長さを減らしたプランティージャを使っています。その音はとても美しく、わたしの650のギターと直接比較しない限り、音量の差は分かりません。あまりにも大きすぎるギターは演奏する喜びを損なう、ということ以外に、反復するストレスによる健康障害を引き起こす可能性もあります。不必要に脅かす気は毛頭ありませんが、ショート・スケールのギターを演奏することでしばしばそれらの問題を予防、解決出来るという可能性を検討することを軽く捉えるべきではないと思います。

Q6. 多くの読者がギターを色々と試奏していく内にますますどのギターが良いのか分からなくなってしまう様です。製作家の立場から、楽器店や工房でどのようにギターの音質や弾き易さをチェックしたら良いのか、アドバイスを頂けますか?

ギターを試奏するとき、数ある要素の中でも際立って、簡単に奏者を感心させるものがあります。例えば、音量です。それに惑わされると、長い目で見ると音量と同様に重要である事に気づくことになる他の様々な要素を聞き逃してしまいます。 楽器としてのギターが良い音を奏でる為には色々な要素が必要です。しかしそれらのいくつかの間には矛盾関係が生じ、しばしばそれらの何かを犠牲にしなければいけません。それらの要素とは、

  • サステインの長さと反応の速さ(特に高音域)はお互いに相関関係があり、しばしば反目しています。
  • 音色は好みの問題で、豊かな・音量のある・太い・鮮明な・開放感のある・輝きのある・暖かい・土臭いなどの様々な互いに相反する形容詞を併用して述べられる事が多いです。
  • 高域から中域、そして低域のバランス (共に音量と音色)
  • 音と音との間での、音量、サステイン、音色に於ける均衡性。
  • ビブラートの敏感さ
  • 音色作りの上での敏感さ
  • 音程の良さ。コードやオクターブ、ユニゾンを指板上を下から上まで移動しながら、どこで弾いても正しい音程を保かどうかを確認するのが望ましいです。

もしかすると分析するのはなかなか難しいかも知れないですが、次の事柄も加えます。

  • 弦高:サドル上とナット上の両方が影響します。
  • フレット: 均一な高さで、正しい凸上の面が必要です。
  • スケールの長さ
  • 指板の形状:平面、凸面、又は凹面(!)
  • ネックの厚さと形状。これに「正しい方法」というのはありません。それぞれの演奏者はそれぞれの異なる手や演奏スタイルを持っています。ギター製作家は大部分の演奏家に最適化する努力をしています。ここでは、高くした指板のオプションにも言及しておきます。
  • 弦と弦の間隔(ナット上とサドル上の両方)、弦の種類とゲージ

ギターを試奏するときには、一般的な製作技術の腕前に目を向ける事も重要です。丁寧に創られたギターは長持ちし、トラブルなく使うことができる可能性が高いです。

Q7. 顧客に対してアフター・サービスはありますか? 特に、高額なギターの購入について心配している人たちも多いと思われるのですが。

私の全てのギターは、もし正しく取り扱われていたのであれば、最初の1年間ひび割れに対して保証されています。もし明白に私に責任がある問題が起きた場合も対処します。時たま、ナットやサドルに不都合があった時に新しいものを無料で送ったりします。しばらくして修理が必要な場合は喜んで対処します。

Q8. ブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)などの木材がますます入手困難になってきていますが、それはあなたのギター製作や完成したギターの品質にどのような影響があると思いますか?

幸運にもそれらが不足する以前に入手することができました。なので、近い将来に障害をきたす事はありません。これからもほとんどの有益なローズウッドは商業的に絶滅、又はそれに近い状態です。主な例外はインディアン・ローズウッドで、幸運にもとても良いギターを作ることができます。今のところ大量にありますが、10年後にはほとんど絶滅に瀕するかもしれません。その時は他の木材を探すことになるでしょう。19世紀中期まで高級ギターの主原料だったメイプルを使う事に回帰すると予想しています。現在もとても良いギターが出来ます。伐採や森林を焼く事で絶滅した熱帯種の木材と違って、メイプルには再生可能な資源としての高い可能性が付加価値としてあります。

Q9. 21世紀に於いてギター製作というこの美しい伝統はどうあるとお考えですか?

楽器に相応しい木材の絶滅が拡大しているのとは裏腹に、クラシックギターの将来はとても明るいと思います。ギターは本当の意味でインターナショナルな楽器になりました。我々の楽器のグローバライゼーションの結果、製作に於ける数多くの革新や実験、そして音が生まれましたが、この熱狂がすぐに収まるとは思えません。演奏家や作曲家がもたらす音や革新も同様に見事で、演奏家と製作家相互が共にギターの輝かしい未来を創っていく事を確実なものにしています。

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