クラシック・ギター製作家:マイルズ・ヘンダーソン・スミス(イギリス)

クラシック・ギター製作家:マイルズ・ヘンダーソン・スミス(イギリス)

今回のギター工房インタビューはイギリスはコーンウォールのマイルズ・ヘンダーソン・スミスさんです。

 

Q1. あなたの工房とその歴史についてお聞かせください。

私は1993年、19歳の時に私の最初のギターの先生でもあるデイビッド・ウォールドリッジの監督のもと人生初のギターを製作しました。

私は芸術を勉強し、美術の学士号BA (Bachelor of Arts) を取得し、後に現代ヴィジュアル・アーツの学士号MA (Master of Arts)を修めました。20代と30代の初期を通して芸術家兼教師として働きました。この期間クラシックギターを弾き続けました。

2008年、今まで手に入れる事を夢に見ていた様なコンサート・ギターを購入する事が出来る幸運に恵まれました。色々探した結果、ケヴィン・アラムを選択しました。ケヴィンを訪れ、(ギターの為の)美しい木材を選んでいるうちに、工具類や香り、ギター製作の可能性に再び恋に落ちました。実際、職業としてギターを製作する事が可能かもしれないという考えが芽生えました。ギターが完成するのを待っている間、私は取り憑かれたようにギター製作について研究しました。1年後に(完成した)ギターをとりにいった際、ケヴィンに私にギター製作の指導をしてくれるかを訊ねたところ、嬉しい事に了承してくれました。彼は知識の共有や助言を与えることに大変寛大で、私の質問に毎回非常に詳細に答えてくれました。彼のギターをインスピレーションの源として所有する事は幸運なことです。

現在のコーンウォールのファルマスにある工房は2009年に開きました。それ以降私の楽器は順調に向上しています。私の技術と芸術家としての創造力、更に伝統的なデザインの絶え間ない研究により、美しい楽器を幾つも製作する事が出来たと思います。

 

Q2. あなたにとって良い音のするギターとはどのようなものですか?またそれを獲得する為にどんな工夫をしているのですか?

私の好きなギターは音に純粋性があり、演奏したときに多過ぎる倍音列によってごちゃごちゃしていない音がするギターです。

演奏家が音楽の声部を弾き分ける事が出来るよう、最低音から最高音まで均一性があるギターでもあります。

そのようなギターは(スル)タスト(指板上で弾弦)の完全な甘い音から(スル)ポンティチェッロ(ブリッジの側で弾弦)の明るい音まで幅広い音色を提供する事が出来ます。

良いダイナミック・レンジがあり、ピアニッシモからフォルテまで明瞭性を維持するものです。私は今日の多くの製作家達が求める様な大音量又はパワフルなギターを目指しません。ギターは他のコンサート楽器と比較して静かな楽器で、私はこれがギターのこぢんまりとしてムードのある魅力の一部だと思っています。しかし、良いギターは遠達性があり小さな音が奏されたとしても小さなホールの端まで届きます。

最初のアタックから徐々に消え去るまで、ギターで演奏された音のエンヴェロープがギターをギターならではの特徴あるものにしています。ギターの音色は楽器や製作家の間で異なります。明白な指標である音量や音程を超えた特定の音の特性を言葉で表現することは問題をはらんでいます。私は完全に丸いヴェルヴェットのような低音と滑らかで明瞭な高音を目指しています。私の楽器は「真の音」を持っていると表現されています。

どのようにしてそのような特性全てを一つの楽器に詰め込む事が出来るのか…それは解ければ100万ドルもらえる質問です。そして、この問題が私が他の楽器を作り続ける所以です。私はそれは釣り合いを取る事だと信じています。表面板やその厚み、補強と柔軟性は音を発する為の唯一の最重要部分として知られています。私は厚みとこの部分の製作に特に綿密な注意を払っています。私はトレスによって提唱された軽量製作の方向へ傾いています。しかし、楽器の全ての部位はその総合的な響きに影響するので、全ての詳細に注意を払っています。私は良く機能する事が実証されている伝統的なデザインを継承し、楽器に私が加えたどんな変更点も最大限に検討された結果であり、最小限に抑えられています。

使用される材料の品質は極限的に重要であり、可能な限り最高のものを使用しています。

製作家としてそれぞれの楽器に視覚的のみならず、究極的には音質的にも唯一の美的特徴を与える為に、職人としての能力が最も重要だと考えています。それぞれの楽器が何週間もの間個別に手作業で製作されるという事は、何か製作家の意思が楽器の中に与えられる事を意味します。どのような変更を加えても結果として完成した楽器は常に私独自の楽器として認識出来る点は興味深いです。

手作りのギターの様に詳細に渡って注意深く作られたものは今日の世界にはあまりありません。1・2年で時代遅れになる最新の電子ガジェットとは対照的に私の楽器は長持ちするように製作され、年数と共に更に美しくなります。

 

Q3. 弾き易いギターを製作する事について考えをお聞かせください。そして、その為にどんな工夫をされていますか?

多くの演奏家がギターのを手に取って始めに見るものは弦高が適正かどうかです。しばしばギターリストは可能な限り低い弦高を求めます。私が使うネックの形状はブリッジ上のサドルが結構高くなる様になっています。これにより、弦の限界角度を高くして弦の振動エネルギーをより多く表面板に伝える事が出来ます。もし要望があれば弦高を下げる事も出来ます。ギターを選ぶときに、ほとんどの演奏家が弦の振動が表面板を通って増幅される効率について考慮しません。より少ない努力で音を出す事が出来る楽器は演奏しやすい楽器となるでしょう。私はこれを得る為に多くの方法を用いますが、主に表面板を可能な限り軽量・柔軟にする事を目指しています。

 

Q4. 伝統的なフレンチ・ポリッシュ(セラック・ニス)や新しい方法(ラッカー、触媒)などの仕上げの方法について、あなたの考えをお聞かせください。

私は手塗りのオイル・フィニッシュを使うことが多いです。オイル・フィニッシュがもたらす視覚的また音色の美しさに感銘を受けています。個人的にこのフィニッシュは最高のイギリスのギター製作を連想させます。イギリスの製作家達のみによってこれが使用されているから、というよりもむしろこれを使って大変素晴らしい効果を得た数人の(英国の)製作家達を連想するからです。オイルは非常に薄く柔軟なので、木が自由に振動する事が出来ます。また、フレンチ・ポリッシュの様に経年変化でひび割れしやすいこともありません。工場生産ギターの多くに使用される厚いニトロ・スプレーには我慢が出来ません。それらの分厚いフィニッシュは、その均一で分厚いニスの下にある如何なる製作上の不備も隠す事が出来ます。 ところがオイルは容赦なく細部にわたり製作技術をさらけ出します。

 

Q5. 640, 628 や 615mm などのショート・スケール・ギターに於いて、弾き易さ、設計、音質や音量の観点から、あなたの考えを聞かせて下さい。また、手の小さい人や女性ギタリストの増加によってそれらショート・スケールの需要は伸びていますか? 

私は主に標準の650mmスケールを用いますが、私の使うボディの形あるいはプランティージャは640から660まで音に悪影響を与える事無く使う事が出来ます。私の知っている小さい手の持ち主のなかでも、650のスケールで演奏する事を完全に歓迎している人もいれば、640を好む人達もいます。ナットと12フレットの位置での指板の幅を手の大きさに合わせて若干調整する事が出来ます。

 

Q6. ギターを設計/製作する段階である特定のブランド・種類・テンションの弦を考慮していますか?

私はダダリオのノーマル・テンションを使っています。ばらつきが無く、どんな音が出るのか常に予測出来るのでこれを使っています。ギター製作には沢山の変数があるので(使用する)弦を変更しない事はとても重要です。個人的には表面板が自由に振動する事を可能にするミディアム・テンションが良いと思います。ハイ・テンションは音を窒息させるかも知れません。

とは言ったものの、弦の好みは完全に演奏者の選択によるものです。

 

Q7. ブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)などの木材がますます入手困難になってきていますが、それはあなたのギター製作や完成したギターの品質にどのような影響があると思いますか?

私のギターの表面板は何百年にも渡って楽器製作の為に供給され、良く管理された森から入手したアルパイン・スプルースを使っています。後板や側板には通常最高品質のインディアン・ローズウッドを使用していますが、これはギター製作の為に問題なく入手可能です。他にもトロピカル・ハードウッズの代替材料になる種があり、ローズウッド、ジリコテ、ココボロ、ブラック・ウッドの様々な亜種等、良好、又もしかするとそれ以上の音響的特性を持ち、美しい楽器を作る事が出来ます。しかしながら、これらの木材はしばしば産出量が少なく、若干値段が高めになることがあります。サクラ、イチイ、シカモア(カエデ種)又はロンドン・プレーン(カエデバスズカケノキ)等持続可能で現地生産の材料もあり、ブラインド・テストでは良い結果が出ているのですがほとんどのクラシック演奏家の中ではまだあまり人気が無いようです。もし顧客がある特定の木材の組み合わせを希望するのであれば喜んで対応します。