クラシック・ギター製作家:サモ・サリ(スロベニア)

クラシック・ギター製作家インタビュー:サモ・サリ(スロベニア)

今回のギター工房インタビューはスロベニアはリュブリャナのサモ・サリさんです。サモさんは音響学について博士号を有する科学者でもあります。今回は科学的な視点から質問に答えていただきました。

 

Q1. あなたの工房とその歴史についてお聞かせください。

全ては私が学生の時にギターを学ぼうと決心した事に遡ります。私のギターを演奏する事に対する情熱は抑えられないものでした。近所の音楽学校で9年間に渡るギター・コースを修了するよう刺激を与えてくれた最高の先生に師事出来た事はとても幸運でした。私の人生のこの時期には、リュブリャナにある機械工学学部で木板における切断過程とその影響による音響特性についてのディプロマも修了しました。詳しくは私の論文「異なる切削による木板の反応周波数(The frequency response of differently machined wooden boards — Journal of Sound and Vibration 1999, Vol. 227, No. 2)」を参照ください。 

ギター音響学の修士課程、そして博士課程へと進みました。この知識を基に、クロアチアの製作家ミルコ・ホッコ氏(Mr Mirko Hotko)の援助もあって、約14年前にギター製作家になる事を決意しました。私にとって製作家であるという事は決して手工技術の問題ではなく、楽器とは実際には何なのか、そしてそれは音楽家達の手中でどのように機能するのかを理解する事です。私は各々の楽器の音を制御・調整する為に、科学に基づいた私独自の方法を使っています。だからといって、私は自分の耳を塞いで工房で耳にする音や、私の楽器についての他の人達の意見を無視する訳ではありません。私は実利主義的に仕事ができる様にそれらの方法を使っているのです。私は科学は自分の目的を達成する為の道具とみなしています。これにより時間と努力を大幅に節約出来、全体的な喜びにも貢献してくれます。結論として、自分は大変革新的な人間だと思っています。今までギターに幾つかの発明を取り入れてきました。例えば、ギターが大変大きなダイナミックレンジを得る事が出来る、いわゆる低密度ブリッジがそれらの内の一例です。正直なところ、ダブルトップ・ギター等の立証された方法や技術を使う事も好きです。

 

Q2. あなたにとって良い音のするギターとはどのようなものですか?またそれを獲得する為にどんな工夫をしているのですか? あなたの科学的な発見やデザインについてもお聞かせください。

製作家になる前に私が取り組んでいた事の一つは、ギターの音色の質を決定する基準を定義する為にギターを測定する事でした。良いギターと悪いギターを客観的に表現する為に数学的・物理的・音楽的方法がある事を発見しました。私はこの基準を「協和・不協和の役割」と名付け、「実験力学(Experimental Mechanics)ギターの音質測定(Measuring the quality of guitar tone, Vol. 40, No. 3, y. 2000)」に発表しました。言い換えると、劣ったギターの音と比較して素晴らしいギターの音はどんな音の分布範囲にも強い協和音程と弱い不協和音程を持つ事を発見しました。音程は、実際にはある音の基本成分とその高い倍音成分から成る、二つの周波数列(成分)から出来ています。例えば、第2・第4周波列(又は周波数成分)は音のスペクトラム上で1オクターブを形成し、とても協和した音程です。次に、どのギターもいわゆる「反応周波数(又は共鳴周波数)」を持っていて、どの周波数でギターが良く響いて「歌い」、どの周波数の音があまり良く響かないのかを私たちに語ってくれます。論理的に、私たちがギターで弾くどの音についても「反応周波数(又は共鳴周波数)」を聞く事が出来、それは今演奏してみた音に関係無くそのギターが実際にどのように響くのかを決定します。最後に、私は素晴らしいギターの「反応周波数」の比率は、協和音程の典型である、例えば、2:1、3:2、5:3等である事を発見しました。製作家としての観点から、この発見はギター製作の目標を意味します。よって、私の目標は「反応周波数」の比率が(心地よい)典型的協和音程ギターを設計する事です。これらの共鳴音は比較的強く響くので、(演奏の際に)最適に消音されなければいけません。その結果として、ギターの音は耳に心地よく、比較的長いものとなるでしょう。実際、私はギター表面板のどの場所の硬度や密度を増加させるべきかを適正に測定する方法を発展させました。硬度や密度とは実際には扇状配置の力木と補強を意味します。私は固定具や力木を接着するのに相応しくない場所を計算する事も出来ます。もし私がここで物事を単純化する事を許されるなら、これらの二つの手順を組み合わせる事で最適なギターの補強をする事が出来ます。ポイントとしては、私はこの方法ををどんな種類のギター、木材、表面板の設計(伝統的又はダブル・トップ)にも応用する事が出来る事です。手短かに言うと、私は(1)ネック、(2)側板、(3)補強と力木無しの表面板の順に組み立て、その後に、それらの最適な位置や形状を計算します。私の論文「最初のギター形態のモデル化と最適化(Modelling and Optimizing of the First Guitar Mode" - Savart Journal, 2011, Vol. 1, No. 1)」にてこの話題について触れています。私のギターの補強パターンはサイモン・マーティ氏のギターのそれと大変良く似たものです。また、私はこの件について何年か前に彼と議論しましたが、彼の寛大さと援助には敬服しています。最近は、ダブル・トップ・ギター(ノメックス・シート)とネックの補強(カーボン・ファイバー芯)を除いて、私のギターは木材のみを使って製作されています。

 

Q3. 弾き易いギターを製作する事について考えをお聞かせください。そして、その為にどんな工夫をされていますか?

演奏性は指板とネックの形状だけでは無く、多くの要素に関係します。理想のネック・リリーフを計算するのに私はかなりの時間を要しました。そして、発見した事柄を私のギターに取り入れるよう最大限の努力をしています。加えて、必要なときには、ネックの演奏性を向上させたり、ネックの変形を防ぐ為に、2方向トラス・ロッドを使っています。演奏性はギターのボディ、正確にはそのインピーダンスに強く依存している事を強調したいと思います。 機械的インピーダンスはかけられた力とその結果もたらされた速度の比率を表します。言い換えると、ギター表面板の振動が激しい程ある特定の周波数におけるインピーダンスと弦の励振が小さくなります。弦からギターのボディへのエネルギーの流れが最適な時、演奏家はギターが良い演奏性を持っていると感じるのです。ほとんどの場合、私たちは片方の手で弦を弾きますが、もう一方の手と(神経が)つながっているので、一方の手の良い感触は通常他方の手に同じ様な感じを与えるのです。よって、もしギターの表面板が巨大過ぎず、弱すぎなければ、弦のエネルギーは最適な方法で伝達するでしょう。もちろん、ギターの全ての(若しくは多くの)主要共鳴周波数は製作家の現実を非常に複雑なものにすることは本当です。言い換えると、良い製作家はギターの全ての主要な共鳴周波数のインピーダンスをコントロールしなければいけません。そしてそのそれらの周波数は主に表面板の設計に依存します。もし私が話を単純化することが許されるとすると、通常大きな(重い)表面板は良いサステインと狭いダイナミック・レンジを楽器に与えると言えます。論理的に、軽い表面板の場合は、特に1弦において短いサステインを楽器に与えます。私はギターの共鳴周波数の中で最も重要なものの幾つかをコントロールする方法を見つけました。これはギターのいわゆる「モード」のインピーダンスに影響を与える事が出来る事を意味します。それぞれの共鳴周波数、又は(振動)モードはそれぞれ独特なモードの形状・増幅・減衰を持っています。一旦ギターの表面板のどこの部分である特定の周波数の最大の増幅を見せるのかが分かれば、補強と扇状の力木でそれをコントロールする事が出来るのです。詳しくは私の論文「ギター表面板の補強位置(Positioning of braces on a guitar soundboard - Proceedings of IMAC-XX: a Conference on Structural Dynamics, Los Angeles, California, February 4-7, 2002)」を参照ください。たまに、私は鉛のおもり(数グラム)を表面板の特定の場所に接着します。これはある特定のギター・モードに大幅に影響します。この良い例として、1弦上の如何なる高音、通常12フレットより上の音が、おもりをつける前はとても短いサステインだったものが、表面板の内側におもりを付けた後は完璧になります。秘訣はおもりを付ける場所です。

 

Q4. 伝統的なフレンチ・ポリッシュ(セラック・ニス)や新しい方法(ラッカー、触媒)などの仕上げの方法について、あなたの考えをお聞かせください。

ここ6年間、私のギターにはセラックのみ使っていますが、ほとんどスプレー・ガンを使っています。もし、スプレー・ガンの代わりに、コットンと多くの手作業を要する伝統的なフレンチ・ポリッシュを希望する顧客がいれば、それも可能です。正直、もし顧客が他の方法を望む事が無ければ、全ての私のギターの表面板はまず始めにフレンチ・ポリッシュされ、後にスプレーされます。ハードウッズでは、私は如何なる種類の砥の粉も使わず、材面の小孔を塞ぎません。私の意見では、目止めは良い音に貢献しません。すなわち、砥の粉は木材の重量(特定の密度)だけを増加させ、木材の硬度は増加しません。事実、ギターから放出される音量エネルギーは木材の硬度に比例し、その密度と反比例します。全てうまく説明出来たよう願っています。私は触媒ニス(ポリウレタン)は上質なギターを保護する事に適していないと考えている人達の意見に強く賛同します。それは単に重量を加え過ぎ、ニス無し、又はフレンチ・ポリッシュと比べてずっと劣った音になります。ラッカー(ニトロセルロース)はその中間に位置すると思いますが、明らかにポリウレタンと違い、もっとフレンチ・ポリッシュに近いです。ここで述べた全てのニスを使った事がありますが、セラックをスプレーする、または、フレンチ・ポリッシュのテクニックで施す事は音質面で最高な方法だと言わなければいけません。残念ながら、楽器の保護という観点では、セラックはあまり良くありません。しかし、音質の良さと引き換えには出来ませんし、これには疑いの余地がないと信じています。

 

Q5. ギターを設計/製作する段階である特定のブランド・種類・テンションの弦を考慮していますか?

いいえ、全く考慮していません。サリ・ギターは多くの異なる弦(ナイロン、カーボン・ファイバー)、異なるテンションの弦を使って良い結果を出す事が出来ます。カーボン・ファイバーの弦は私のダブル・トップ・ギターに使うととても良い音がするのは興味深い事です。それらの弦を使うときに、多くのギターに見られる耳障りな音がしません。

 

Q6. ブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)などの木材がますます入手困難になってきていますが、それはあなたのギター製作や完成したギターの品質にどのような影響があると思いますか?

少し前にドイツのサプライヤーからもうローズウッドは取り扱わないと聞かされたときは本当に驚きました。私の記憶が正しければ、これはローズウッドが希少なのではなく政府の規制による結果ですが、私にとって影響は同じです。実際私は全く問題のない他のサプライヤーを見つけましたので、今のところこの問題は危機的でないよう祈っています。私の在庫は莫大なので、現時点では何も問題はありません。例えば、数百本分のギター・ネック用に木材を購入したので、私が生きている間は大丈夫でしょう。幾つかの木材の種が市場から姿を消したとしたら、我々は別の解決策を見つけるであろうと確信しています。あなたの質問に直接答えると、今のところ木材が入手困難になることによっては何も問題はありません。 しかしそれがすぐに起きたとしても驚きません。

 

Q7. 21世紀に於いてギター製作というこの美しい伝統はどうあるとお考えですか?

全ては順調だと思います。大量のエレキギターやそれに関連する音楽はクラシックギターの競争相手と見るべきではありません。そして、音楽は私たちの生活の重要な部分を占めているので、論理的に将来にも音楽はあり続けるでしょう。私にとってより関心があるのは、近い将来にこの楽器において何か重要な変更を我々が目にする事があるのかどうか、という事です。すなわち、誰でもダブル・トップ・ギターやラティス・ギターは伝統的なスペインのギターとは異なる事を知っています。よって、トレスによっていわゆる「現代クラシックギター」が導入された以降、既に2つの重要な変更が登場したと言えます。私の分野では、幾つかの新しい面々がこのビジネスに参入した事に気づきました。楽器製作の人気は危機的な状況では無いという事でしょう。一方で、ヨーロッパの幾つかの製作家達が商品を販売するのに大きな問題に直面している、という話を耳にしました。明らかに、競争は激しく、ギターの水準は急速に向上しています。よって、長期的には本当に優れた者達と幸運に恵まれた者達だけが生き残る事が出来るでしょう。

 

 

サモ・サリ

2016年2月6日、リュブリャナ


 

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サモ博士はギターやギター音響学についての講演もされています。

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