テンポについて考える, Part 3 - アレグロ

今日、「アレグロ」とは一般的に「速く」という意味で使用されているのはご存知の通りです。「陽気に」、又は「喜びに満ちた」というイタリア語の本来の意味を考慮すると、「アレグロ」が遅いテンポより速いテンポに属する事は想像に難くないのですが、ではどれだけ速いのでしょうか? 

今回は「アレグロ」と言う概念が歴史上始めて文献に記された例を取り上げたいと思います。

 

アレグロとテンポ

まずは最も初期段階の「アレグロ」、そして「テンポ」と言う概念と、その発展を見てみましょう。

「アレグロ」や「アンダンテ」等の「テンポ・マーク(速度記号)」は基本的に1600年以前には知られていませんでした。

Opera Intitulata Fontegara Opera Intitulata Fontegara 

最も古い「アレグロ」という言葉の記述の一つを、ベネツィアの演奏家、理論家、そして楽器製作家として有名な、シルベストロ・ガナッシ・ダル・フォンテゴ(Silvestro Ganassi dal Fontego)が1535年にベネツィアにて出版した「Opera Intitulata Fontegara」というリコーダー奏法とその装飾法についての専門書に見ることが出来ます。この本では、ある種のトリルを陽気な演奏法(アレグロ)として紹介しています。

[注]
ガナッシはピエトロ・アーロン(1523)と並んで、歴史上始めて「カデンツァ」という名称を使った理論家としても知られています。これは今日の「カデンツァ」のルーツですが、彼は現在「カデンツァ的装飾」と呼ぶべきものを指してこう呼んでいた様です。

 

Libro de música de vihuela de mano intitulado El maestro (1536)歴史上最も古いテンポ指定

話は少し本日のテーマである「アレグロ」からそれますが、歴史上最も古い楽曲に対する「テンポ指定」の例を紹介したいと思います。スペインの作曲家でビウエラ奏者、そして、歴史上始めてビウエラ曲集を出版した事で有名な、ルイス・デ・ミランの「Libro de música de vihuela de mano. Intitulado El maestro (1536)」という本にそれを見ることができます。ミランはファンタシーアの幾つかにおいて「速すぎず、遅すぎず、しかしながら中庸な速度で」、「和音はゆっくりスケールは速く」「ルバート」等の速度指定を記しています。

 

ツァルリーノのアルモニア教程

他にも、最も古い「アレグロ」という概念の一つの例を、イタリア・ルネサンス期の有名な理論家兼作曲家、ジョゼッフォ・ツァルリーノが出版した「アルモニア教程(Le Istitutioni Harmoniche", Venice, 1558)」という理論書に見ることができます。

ジョゼッフォ・ツァルリーノ
ジョゼッフォ・ツァルリーノ
アルモニア教程(Le Istitutioni Harmoniche", Venice, 1558)
 

ツァルリーノはこの理論書の中で、『歌詞がリズムと和声に従うのではなく、和声とリズムは歌詞に従わなければならない』と述べています。興味深い事に、これはモンテベルディを彷彿とさせられませんか?

ツァルリーノは著書の広範囲にわたって「allegro」・「allegre」・「allegramente」といった単語を「喜びに満ちた」と言う意味合いで使っています。しかしながら面白い事に、この「喜びに満ちた」事を表現する為のリズムと速度についても言及しているのです。

 

歌唱法について:

"歌詞が喜びに満ちた要素を持っているときはそのように陽気に歌うなど、曲が持つ歌詞の性格に応じて歌いなさい…"

 

作曲法について:

"もし歌詞が陽喜びに満ちている、又は悲しげな、厳粛な、又は厳粛でない、慎ましい、又挑発的な内容を扱うならば、和声とリズムの選択は歌詞が持つその内容の性格に応じて行わなければならない"

 

そのリズムと速度について:

"もし歌詞が喜びに満ちた内容を含んでいるのなら、力強く速い動きで対応しなければならない。 すなわち、速い動きを伝える音価であるミニムやセミミニムなどである。しかしながら、もし内容が涙を誘う様なときは遅く長い動きで対応すべきである。"

 

速度ではなく「陽気な」、とか「喜びに満ちた」といういわゆるムードを表現していた「アレグロ」が少しづつ「喜びに満ちた=速い」という現代の意味合いに近い概念を兼ね備える様になってきました。

続き: テンポについて考える, Part 4 - アレグロ