クラシック・ギター製作家インタビュー: リック・ミドルトン(イギリス)

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クラシック・ギター製作家便覧プロジェクト第一弾はイギリスのリック・ミドルトンさんです。

 

Q1. あなたの工房とその歴史についてお聞かせください

生涯にわたり木工を趣味としていたのですが、生物学を教える仕事を早期退職した後にギター製作を始めました。私が製作した初期の2本のギターを1994年にロンドンで開催されたコンクールに出品し、それぞれ金賞と銀賞を獲得しました。それによって証明された私の多少の才能を信じて1997年まで受注生産や楽器店を通して販売等をしてきました。

 

Q2. あなたにとって良い音のするギターとはどのようなものですか?またそれを獲得する為にどんな工夫をしているのですか?

この質問の規模の膨大さが分かりますか?私は35000字の本を執筆しましたが、その本にすら全ての事柄を詰め込む事が出来ませんでした。質問5の音について述べたものを参照して下さい。良い音は最適な厚さとグラデーションをもつ表面板を作る事、そしてそれが全ての周波数を表現出来るような方法で補強する事によって生み出されます。私は表面板をドーム状にすることによって硬度と重量の比率を高められると堅く信じています。この表面板をマウントするボディは表面板が生み出す振動と共鳴しなければなりません。完全にこれを説明する為にはもう一冊35000字の本を書かなければなりません。出版社を探してきて下さい!

 

Q3. 弾き易いギターを製作する事について考えをお聞かせください。そして、その為にどんな工夫をされていますか?

通常ギターの「アクション(弦高)」とは12フレットに於いてのフレットと弦との距離を指しています。クラシック・ギターの場合、6弦のアクションが4mm、1弦が2.75mmというのが典型的な例です(1.25mmの差があります)。平らな指板でこれを達成する為には、サドル部分で低音側が高音側に比べて2.5mm高い必要があります。これは不自然で、音のバランスにも影響を及ぼします。ナット部分低音側が最も太く、低音側の12フレット部分が最も細くなる様にして平にした指板を作る事によって、この問題を是正出来るでしょう。これは19フレット部分が細くなり過ぎない事に留意して下さい。表面を観察するとねじれている様に見えると思います。こうする事で、サドル部分をほぼ水平にする事が出来ます。

弦が振動するとき、それが占有する空間は曲線を描きます。そして低音弦はより振幅が大きくなります。低音の6弦1フレットを押さえて弦を弾いた様子を想像してみて下さい。もし指盤が完全に平面である場合、通常5、6フレット上で弦がフレットにぶつかりビビるはずです。押さえるフレットを上げていくと、干渉するフレットもそれと共に上の方へ移動して行きますが、音程が上がるにつれて弦が振動する幅が小さくなって行きますので、問題も減って行く訳です。「ベース・リリーフ(Bass relief)」とは縦方向の少量の凹状のゆとりの設定で、5、6フレットから理論値によって特定の量が減少して行きます。これは低音弦の5弦から4弦と音程が高くなるにつれても減少していき、1弦ではほぼゼロになります。この凹面は12フレットより上まで延長するべきではありません。さもないと、19フレット状での指板の厚さに影響が出てしまいます。つまり、12フレットから19フレットまでは単一の厚さでないといけないのです。 クラシック・ギターに最適なベース・リリーフとは、12フレット上で弦を押さえたとき、ナットと12フレットの間で、5・6フレット上に0.25mmから0.35mmの隙間が必要だと思います。

6弦に渡るセーハを平面状の指板で押さえるとき、セーハの中心部に更に圧力を加える事は困難です。 従って指板の中心部を緯度方向に凸面を形成すつ用に盛り上げます。1、2段落で述べた様々な拘束を留意すると、これを指板上で均一に施す事は困難です。ベース・リリーフは5・6フレット上で最大値となり、9・10フレットより上に行くと減少して行くのです。

上記の全ての行程は一貫したものとして計画しなければいけません。ギターを作りを始める前に、全てを考慮しないといけないのです。仕上げの表面は複雑です。直定規を使って表面には絶対的に凸面のない、直線的なものである事を確認する事が大変重要です。直定規が平行にある弦に対して旋回してしまう様な部分は下方に修正されなければなりません。この概念はフレットを打ち込む時にも考慮されなければ行けません。そして、フレットの頂点を調整する事も楽器の弾き易さを極限に高める事になるのです。

 

Q4. 伝統的なフレンチ・ポリッシュ(セラック・ニス)や新しい方法(ラッカー、触媒)などの仕上げの方法について、あなたの考えをお聞かせください。

やや手荒く、そして汗をかいた手で扱われるギターをコーティングする為の仕上げ(フィニッシング)に用いられるニスは、硬質である事が必要です。そして、楽器が魅力的に見える様表面に滑らかで輝きをもたらし、時たま何かで湿らせた布で油分と塩分から成る汗を取り除く事が出来る必要があります(水で薄めた石けんやホワイト・スピリット(精製ペトロール)が良いでしょう)。コーティングされたニスは汗や、手が多少擦れる事によって剥がれてもいけません。フレンチ・ポリッシュ(セラック・ニス)は私の考えるところ、前記した全てに於いて基準を満たしません。フレンチ・ポリッシュによって見事に仕上げられた、出来立てのギター程美しいものはありません。しかし、誰か非常に汗かきな人によって1年ほど使われた場合、フレンチ・ポリッシュで仕上げられたギターほど、ボロボロに見えるものもありません。私は新しいラッカーによる仕上げの信奉者です。

ニスはギターの共鳴性能を保つ為にとても薄く塗る必要があります。そしてそのニスの厚みはそれを塗る部分によって最適なものである必要があります。また、長期的には仕上げを施し直す事が出来る必要があります。いくつかの工場生産のギターは工業的な仕上げがなされており、もはや何も手の施しようがありません(修理して新たに最適な仕上げを施す事が出来ません)。今までそれらのギターの修理を試みましたが、丹誠込めて慎重に修理したギターの外見が、あたかも今すぐ修理が必要だと思わせる様になってしまい、心が張り裂けそうになりました!

おそらく、最高の仕上げは良く施されたニトロ・セルローズ(触媒無し)だと思います。これには、工業的なスプレー室が必要です。さもなくば、私の自宅兼工房を燻蒸し、そこで働いている作業員(私です!)を毒ガスで攻撃するからです。 私は仕上げの質が良く、素早く施す事が出来、そして仕上げし直す事が出来るものを探して、常に新しい材料を試しています。私が今使っているニスは満足いく様に仕上げるのに大変長い時間がかかります。私は塗られたニスを研磨し平らにし、もみ革でつや出しをします。私が自分の為に作ったコンサート・ギターは完成してから14年経ちますが、その仕上げの完成度は私のギターの良い宣伝になっています(色々手が入っています!)。

フレンチ・ポリッシュがギターの音を保つ唯一の仕上げだと言う人たちがいますが、それは彼らがこの方法がアルカイックで熟練した技術が必要だという見方から生まれたナンセンスです。かれらはエゴによって冷静な判断を失ったのです。

 

Q5. 640, 628 や 615mm などのショート・スケール・ギターに於いて、弾き易さ、設計、音質や音量の観点から、あなたの考えを聞かせて下さい。また、手の小さい人や女性ギタリストの増加によってそれらショート・スケールの需要は伸びていますか? 

もしあなたが650mmより短いスケールが必要であるならば、640mmに行くのはあまり意味が無い事だと思います。私は手の小さい人達の為に600mmのスケールのギターをたくさん作りました。もしそれらのギターが、最適な厚さや響きの調整を施され、型板とそのサイズに最適な修正が加えられて組み立てられたものであれば、適切な弦との組み合わせで非常に良く響きます。

私の販売店からの引用:

この製作家の技術により、音質、弦のテンション、そして音の深みは全て標準サイズのギターとほぼ同じで、演奏するのが楽しいギターに仕上がっている。小さい手を持った皆さん、ここにあなた達の為に特別に設計されたハンド・メイドで高品質のギターがありますよ!

 

Q6. 多くの読者がギターを色々と試奏していく内にますますどのギターが良いのか分からなくなってしまう様です。製作家の立場から、楽器店や工房でどのようにギターの音質や弾き易さをチェックしたら良いのか、アドバイスを頂けますか?

ギターの音質をチェックする為には、まずギターがコンサート・ピッチに正確に調弦されていることを確認し、低音弦から始めて下さい。低音弦の音質ははっきりしていますか?低音の解放弦の音はクリアですか?弦を爪弾く方法や場所を色々変えてみて音色が色々と変化しますか?もしこの時点で好ましい結果が無ければ躊躇せず他の楽器を試してください。高音弦の指板中程で弾いた音が鳴り響きますか?それらの音の減衰は早すぎませんか?これらの響き方は12フレットを超えても続きますか?中には他の音よりはあまり鳴り響かない音もあります。それらの音と同じ音を指板上の他の場所でも試してみて下さい。

指板上の中程で、セーハを伴うコードを弾いてみて下さい。どのくらい容易に弾くことができますか? 中低音と高音の音質はあなたの耳に同じ様に聞こえますか?これらのテストを1フレットと2フレット上で行ってみて下さい。そして出来るだけ高いフレットでも同じ様に試してみて下さい。
楽器の基本的な反響が聞こえますか?もしあなたが十分低い声の持ち主なら、サウンドホールに向かって、声が反響して返ってくる音を探しつつ静かに歌ってみて下さい。これらの音程は解放弦の音程と同じであってはいけません。ラの音の場合は問題かも知れません。ミの場合も問題かも知れませんが、そんなに低い声は出せないでしょう。ソ♯やファ♯の場合は良い兆候です。そしてもしこれらのテストに合格した場合、客観的に自問する事を忘れないで下さい。「結局、私はこのギターが好きなのか?」と。

 

Q7. 顧客に対してアフター・サービスはありますか? 特に、高額なギターの購入について心配している人たちも多いと思われるのですが。

アフター・サービス:はい。良識の範囲内なら完全にあなたの希望に添います。もしあなたがお金を投資する事に対して心配であるのであれば、あなたは購入を決断する前に完成したギターを試奏出来ます。私はギターを注文される際、前金を頂きません。もしあなたがそのギターを気に入らなければ、それを購入しなければ良いのです。しかし、もし私のギターを中古として引き取る事を希望されても、あなたの購入金額全額で引き取る事はしません。

 

Q8. ブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)などの木材がますます入手困難になってきていますが、それはあなたのギター製作や完成したギターの品質にどのような影響があると思いますか?

ウェブページからの引用:

私は熱帯地方の木材のユーザーであり、自然保護論者でもあります。私は何の問題も無いと思います。私はそれらの木材を輸入して購入する為に税金を払っていますし、それらのお金で彼らは資源を枯渇させない様植林出来ます。しかし、ギターリストが唯一の木材のみを求める事に対して懸念を抱いています。希少価値のみならず、ある種の音色が伝説であるかの様に思われているからです。木材は一つとして同じものはありません。ギターリストもお互いがクローンのようである必要もないのです。
リオ・ローズウッドの代替に使える木材はたくさんあります。そして自然保護の為には、多様な種類の木材を使う事が一番なのです。これらの理由から、私は幅広い木材を保有しています。注文する際には熱帯地方や温帯地方の木材から選択して頂けます。もしご要望とあれば、私は熱帯雨林地方の木材を一切使用しないギターを製作できます。私の木材保管室や工房は湿度と温度が管理されています。いくつかのストックは他のギター製作家から購入したもので、私のギター製作人生より古いものもあります。残りのほとんどは5年ものです。使用前の45%の相対湿度のもと、定期的にサンプルを計量する事は安定性を高めます。注意深く育てられた高品質な生の材料は明確にワインやギターの味を高めます!
良いギターを作る事はある特定の木材に頼る事ではなく(もちろん役立たずの木材もありますが)、それぞれのパーツを注意深く調整する事なのです。私の最新のギターは安いただのマホガニーで出来ていますが、その所有者であるプロの演奏家は大変満足しています。

 

Q9. 21世紀に於いてギター製作というこの美しい伝統はどうあるとお考えですか?

私は自然保護の間違った施行が、ギター製作家の合法的に植林された古い材木の使用を阻害している事が心配です。私は象を保護する為に象牙を破壊する様な環境保護を、自分たちの足を鉄砲で撃つ様なものだと思います。愚かな事です!(ここは地球だよ、リック、何を期待しているのかい?知的生命体でも期待しているのかい?)

私の最も近隣の製作家はプラスチック製のギターを作っており、彼らはそれらが上手く機能していると考えています。私は合成カーボン・ファイバーを使って楽器を製作してみたいものだと思っています。それらで出来たギターが一般化されるかも知れませんが、恐らく私の生存中はあり得ないかも知れません(私は次の誕生日で69歳を迎えます)。もしかすると、未来のクラシック・ギターはデジタルで増幅された非生楽器の、コンピューター制御のトーンやヴォリューム・コントロール付きデバイスになっているかも知れません。これらはもう既に実在し、それが一般的に普及するかも知れません。アルミニウムでヴァイオリンを製作した人たちもいます。誰が未来を予想出来るでしょう? 実際はもっとおかしなものとなって現れるかも知れません。