クラシック・ギター製作家インタビュー:ゲイリー・サウスウェル(イギリス)

クラシック・ギター製作家インタビュー:ゲイリー・サウスウェル(イギリス)

今回のギター工房インタビューはイギリスのゲイリー・サウスウェルさんです。

 

 

Q1. あなたの工房とその歴史についてお聞かせください。

私は1978年に父の家具製作工房でギター製作を始めました。私はかつて、そして現在も熱心なギタリストで芸術家です。1980年にロンドン・コリッジ・オブ・ファーニチャー(訳者注:現シティー・オブ・ロンドン・ポリテクニック。情報技術・工業デザイン等を学ぶ専門学校)でヘルベルト・シュワルツ、トニー・スミス、スティーフン・バーバーの指導のもと、ギター製作の勉強を始めました。3年後に卒業し、自らの工房を立ち上げ、職業ギター製作家として今に至ります。

 

Q2. あなたは19世紀の歴史的ギターやAシリーズという現代のギターを専門とされています。あなたにとって良い音のするギターとはどのようなものですか?またそれを獲得する為にどんな工夫をしているのですか?

私の19世紀ギターに置ける仕事はデザインと言うよりも事故のようなものでした。私の学校での最後の年にパノルモ・ギターのコピーを製作したのですが、とても19世紀の音楽のピリオド奏法に関わっているギター奏者達の関心を引きました。その当時、私はこの分野を専門としているとても数少ない製作家の一人でしたので、すぐにコピーや修復の仕事で引っ張りだこになりました。ヨーロッパ中を旅行して一般公開されているものや、プライベートの楽器コレクションを見て周り、当時ほとんど知られていないこれらの楽器の研究をしました。現在ではこれらのギターに対する関心が高まり、ギターの歴史の中で重要な位置を勝ち取る事が出来た事を嬉しく思います。私にとってロマンティック・ギター初期の3大製作家はシュタウファー(Stauffer)、ラコート(Lacote)、パノルモ(Panormo)です。その1世紀後にはシェルツァー(Scherzer)とトレス(Torres)がいます。それらは全て異なるスタイルを持っていました。恐らく私はシュタウファーから最も影響を受けました。彼の創造力や様式のセンス、彼が達成したギターのバランス、明瞭性、素早い反応性や遠達性等です。私はラコートのギターの優美さを尊敬しています。パノルモのギターの音はそれ程好みではありませんが、ヘッドのデザインがとても好きです。シェルツァーはシュタウファーのアイデアを継承し、これらの中で最も優れたギターを幾つか生み出したと私は考えています。トレスは多くの要素やアイデアをひとまとめにしてその後大変多くの優れた製作家達を感化することになる美しくバランスのとれたギターを生み出したと思います。私の製作家としての最初の10年間は歴史的ギターのみを専門として過ごしましたが、本来現代的なギター製作家として修行したので、より一層私独自のデザインのギターに取り組む事に回帰する事に関心が移っていきました。19世紀ギターに没頭した事により、良い楽器を製作するための多くの異なる、又は変わったアプローチによるアイデアを得る事が出来ました。そして、この知識を実践に移す事を始め、モダン・ギターを設計・製作する事を再開しました。これが私のAシリーズ・デザインに繋がりました。設計の要素は歴史的ギター、特に19世紀ウィーン様式のとても伝統的なディテールからインスピレーションを受けました。私のギターはしばしば「 革新的」そして「パイオニア的」と見なされますが、それらギターはまさに21世紀のギターリストの為に作られています。近代的なアイデアと過去の伝統的な美学がブレンドされています。私は(ギター製作に於いて)独自の音とスタイルを作ることが重要だと感じています。私はかつての多くの偉大な巨匠達の緻密な研究を通じてそれを成し遂げてきました。彼らの作品をコピーする際には自我を忘れる必要があり、ここに真の意味の学習が始まる事に気がつきました。私は現在最高の多くのギターリストと共に働く事によって自らの音を発展する機会にも恵まれました。特にジュリアン・ブリームとデイヴィッド・スタロビンと多くの年月を過ごしました。その他、ジョン・ウィリアムスやスコット・テナント、フランク・ブンガルテンによる貢献は注目に値します。究極的に、私に最もインスピレーションを与えてくれるのは音楽家と彼らの生み出す音楽です。私の考える良い音のするギターとは、温もりと豊かさ、ダイナミック(pppの際に反応性があり満たされた音がすると同時に大きなフル・fffも許容する)を多く兼ね備え、多くの色や性格を伴う大きな音色のバリエーションを持ち、長いサステインを持つ事が可能で、反応性と素晴らしい遠達性を持つバランスの良いギターのことです。何か言いそびれた事があるでしょうか?長年の経験や実験、そしてたゆまぬ努力が必要です。36年間一日中製作を続けた結果、ようやく成果が出てきたと感じています!

 

Q3. 弾き易いギターを製作する事について考えをお聞かせください。そして、その為にどんな工夫をされていますか?

演奏のし易さとは人によって異なる事を意味し、演奏技術には多くの方法があるので全ての人に有効な単一手段を考える事は不可能です。ギターは物理的に演奏が難しい楽器である事は良く承知しています。私の設計では可能な限り快適で演奏し易いギターを作る様に注意深く考えられています。サイズや形、重量やバランスからネックの感触に至まですべてが重要です。私は左手の為にはハイ・ポジションで演奏がし易い様にカッタウェイを、そして右手の為には腕をのせる際に快適であるだけでなく、表面板の振動を吸収する事を減らしてくれるアームレストを導入しました。フレットを配置する技術や快適な弦高にギターを正しく調節する事は重要です。繰り返しますが、これは演奏者によって異なるでしょう。私のAシリーズの特徴の一つは演奏者が簡単に好みの弦高に調節する事を可能とするアジャスタブル・ネックを採用している事です。これは19世紀ウィーンのシュタウファーによるネック製作方法の発明の応用で、その後廃れたものを1980年代に私が現代の楽器の為に再び採用しました。最近になって他の製作家達も模倣し始めてきたものです。特注の楽器を製作するという事はネックの寸法や形状など顧客の要望に添う為に話し合う機会を得る事が出来るということですが、私の経験では全ての演奏者が何が自らにとって最良なのかを知っている訳ではありません。特に顧客が何か極端な事を望んでいると考えられる場合は彼らとじっくりと時間を割いて煮詰める事が最良の解決策を得る為に繋がります。最も重要な事は演奏者と一体となれるよう、演奏者のタッチに敏感なギターを製作する事です。

 

Q4. あなたの使用している仕上げ方法についてお聞かせください。

私は二つの気に入った仕上げ方法を持っています。一つはオイル・ヴァーニッシュで、自家製のものです。刷毛で塗り、紫外線を当てて硬化させます。美しい輝きを持ち、私の意見では見た目や音、耐久性の面でフレンチ・ポリッシュより勝っています。又、私はオイル・メソッドによる仕上げも好きです。これは木により自然な見た目を与え、私のボグ・オークのギターに最適です。ボグ・オークの仕上げには蜜蝋も用います。これも自家製で、私が所有しているミツバチのプロポリス(訳者注:ミツバチがその巣のすき間を詰める赤みがかった油性物質)を使って作ります。工場生産の分厚い見た目のギターと違って自然な見た目が気に入っています。オイル・メソッドは開かれた、あたたかい音を生み出す事に貢献し、メインテナンスも楽です。

 

Q5. 640, 628 や 615mm などのショート・スケール・ギターに於いて、弾き易さ、設計、音質や音量の観点から、あなたの考えを聞かせて下さい。また、手の小さい人や女性ギタリストの増加によってそれらショート・スケールの需要は伸びていますか?

19世紀に遡ると標準の弦長は630mmでしたのでショート・スケールの品質については良く理解しています。確かに音に深みが欠如し、大きく深い低音を得る事は決してあり得ない一方、バランスの良さと明瞭性を伴った素晴らしく詩的な特性は欠点を十二分に補います。音量について語る際には本来何を意味するのかに注意する必要があります。多くの小さいギターは良い遠達性とバランスを持っているので結果的に多くのいわゆる大音量ギターよりも良く響くことになります。あなたの認識の仕方やどこからギターを評価するかに大きく依存します。演奏家がショート・スケールを求めるときには、私はその理由を注意深く探ります。しばしば彼らは演奏技術による問題に対しての解決策と見なす事がありますが、経験からこれが常にその回答とはなり得ない事を学びました。物理的に小さい人の場合でさえ、ショート・スケールが常に解決してくれる訳ではないのです。ネックの形状やギターがどのようにタッチに反応するかによる調整など他に検討するべき事があるのです。しばしば彼らが必要なのはより良いギターにグレードアップすることなのです。しかし、それが究極に必要な場合は喜んでショート・スケールのギターを製作します。

 

Q6. ギターを設計/製作する段階である特定のブランド・種類・テンションの弦を考慮していますか?

私はギターを製作する上で如何なる弦も念頭に置いていません。これはまさに演奏者の個人的な選択です。演奏者が求める如何なる事にも反応するギターを製作する事が私の仕事だと感じています。

 

Q7. ブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)などの木材がますます入手困難になってきていますが、それはあなたのギター製作や完成したギターの品質にどのような影響があると思いますか?

現在幸運にも大量の木材のストックがあります。私はドイツ松で表面板を製作する事が好きで、今まで確保してきた在庫と何年か前にジュリアン・ブリームが大量の良質な表面板を寄付してくれたものを使っています。最低でも30年物の精選した素晴らしい表面板を私の製作家人生に必要な量以上保有しています。私は決してブラジリアン又は南米のローズウッドを良いと思った事がありませんし、それらにまつわる伝説も理解出来ません。過去にそれを使用した事があることは確かですが、それ以降在庫を確保する事もありませんし、もう二度と使用する事もありません。私は常にインディアン・ローズウッドの音質の方が好みで、今ある在庫からこれを使い続けるでしょう。後ろ板や側板の為の私のお気に入りの木材はメイプルとボグ・オークで、将来これらを使用したギターをもっと製作する予定です。ある種の木材が入手困難になった事で私のギターの品質や製作方法になんらかの影響が出た事があるとは無いと信じています。私個人に影響が無いだけで、他の製作家や将来の世代にとっては問題なのかも知れません。これらの問題に対する解決策が常にあると信じています。長年に渡って歴史的ギターを研究してきた私の経験によって、偉大な製作家はおおよそ何を使っても偉大なギターを作る事が出来る事を確信しています。

 

Q8. 21世紀に於いてギター製作というこの美しい伝統はどうあるとお考えですか?

私は将来についての明白な展望を持っていません。技術的に優れ、品質が大幅に向上した一方、昨今に製作された物の多くに理解と様式の欠如が見いだされます。ギターの将来に於ける最大のチャレンジは、社会と同様、新しいテクノロジーとどう付き合っていくか、という事だと考えています。既にコンピューターと機械は工場だけでなく多くの個人にとって、ギター製作手段の一部になってきています。私はこれらのテクノロジーが人間の創造力の代替になる事は決して無いと信じています。私は作品の背景にいる人間を感じ、感情を共有して何か特別な物の一部になりたいと思います。我々の性格や欠点、その他全てが我々を唯一の存在にします。将来においてこの点が製作家達や音楽家達、そして彼らの聴衆によって評価される事を願っています。

ギャラリー: 

ゲイリー・サウスウェル:ボグ・オーク Aシリーズ、オイル・フィニッシュ(フロント) ゲイリー・サウスウェル:ボグ・オーク Aシリーズ オイルと蜜蝋フィニッシュ (後板と側板) ゲイリー・サウスウェル:アジャスタブル・ネック1 ゲイリー・サウスウェル:アジャスタブル・ネック2 ゲイリー・サウスウェル:ボグ・オーク Aシリーズ スティール弦 ゲイリー・サウスウェル:ボグ・オーク Aシリーズ杉ヴァージョン、ヴァーニッシュ、メイプル(後板.側板) ゲイリー・サウスウェル:シュタウファー ゲイリー・サウスウェル:ラコート ゲイリー・サウスウェル:パノルモ ゲイリー・サウスウェル:シェルツァー ゲイリー・サウスウェル:トレス ゲイリー・サウスウェル:工房① ゲイリー・サウスウェル:工房②

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