クラシック・ギター製作家:ハイメ・アレス・ビジャロンガ(スペイン)

クラシック・ギター製作家:ハイメ・アレス・ビジャロンガ(スペイン)

今回のギター工房インタビューはスペイン、ウエルバのハイメ・アレス・ビジャロンガさんです。

 

Q1. あなたの工房とその歴史についてお聞かせください。

常に音楽、特にギターに興味がありました。私は小学校の音楽の教師で、ギターや木工に対する情熱に端を発した趣味は、自分でも殆ど気が付かない内にギター製作家になるに至りました。しばしの独学期間の後、更にこの道を究めたいという願望から、スペインの偉大な製作家達に師事する事を決意しました。ホセ・ルイス・ロマニージョス、ジャウメ・ボセール、ジョアン・ペリサ、ラファエル・ロペス・ポラス、カルロス・ゴンサレス、その他による講習会に参加しました。私はスペインの伝統的な工法を継承し、(ロセタの製作からフレンチ・ポリッシュのニス仕上げまで)完全に手工製のギターを製作していますので、それぞれのギタリストの要望に沿って全ての部分でカスタマイズすることができます。

 

Q2. あなたにとって良い音のするギターとはどのようなものですか?またそれを獲得する為にどんな工夫をしているのですか?

良い音という概念は客観的でいて、なにか主観的なものになるかも知れませんが、私の意見ではコンサート・ギターはいくつかの明白な特徴を持つべきだと思います。低・中・高音域間での音色・音量のバランスがとれている事、良い遠達性(フォルテからピアノまで最も遠い聴衆まで音が到達する能力)、良いサステイン、明瞭な音色(丸い低音、クリアな高音)などなど。

それらの音響的な結果に関係する要素は沢山ありますが、私にとってそれらの中で3つ優先的なものがあります。 軽量な事、表面板が柔軟な事(弦の振動に敏感)、密度がブリッジに向かって集中する事(中心部で最高密度、外側に行くにつれて低密度)です

言うまでもなくこれは単なるアプローチの一つで、他にもブリッジ、サドルやナットの弦の角度、共鳴板の中に含まれる空気の量、弦長、弦のテンションなど、他にもとても重要な要素があります。

 

Q3. 弾き易いギターを製作する事について考えをお聞かせください。そして、その為にどんな工夫をされていますか?

秘訣はナットの幅(51/52mm)から12フレット上の弦高3mm、もちろん表面板の厚さや軽量な力木等等、限界に挑戦する事を恐れない事だと思います。表面板の柔軟性は良い音の反応をもたらすだけでなく、左手の感触を快適にします(弦の感触が柔らかく感じられます)。

 

Q4. 伝統的なフレンチ・ポリッシュ(セラック・ニス)や新しい方法(ラッカー、触媒)などの仕上げの方法について、あなたの考えをお聞かせください。

それらにはそれぞれ長所と短所があると思います。 

個人的には、素晴らしい仕上がりになる事、修復が簡単な事、コンサート用の楽器が必要とする理想的な柔軟性を持ち合わせるフレンチ・ポリッシュを使っています。 当然、ポリウレタンよりデリケートなので取り扱いにより一層の配慮が必要です。

薄い層で仕上げられたポリウレタンは指や爪によってパーカッシブに演奏されるフラメンコ・ギターにとって良い選択肢になり得ます。しかし、フレンチ・ポリッシュより柔軟性に欠けることに加えて、修復時により悪い仕上がりになるように思えます。

 

Q5. 640, 628 や 615mm などのショート・スケール・ギターに於いて、弾き易さ、設計、音質や音量の観点から、あなたの考えを聞かせて下さい。また、手の小さい人や女性ギタリストの増加によってそれらショート・スケールの需要は伸びていますか? 

我々は標準サイズ(650/660mm)にとらわれ過ぎている様に思います。いくつかのモデルでその有効性が証明済みであるとは言え、常に全てのギタリストの個人的な要望に合う訳ではありません。 

私の見解では650以下のスケールにはいくつかの長所があると思います。特にオープン・ポジションでの快適性の向上、より小さい弦の振幅(弦高を更に下げることが可能)、そして表面板でのテンションがより低いこと(撥弦の快適性の向上と共に表面板を更に薄くして更に表現力のある楽器にする事が可能)です。

需要は(少なくとも私の場合は)あまり目立ってありませんが、それは殆ど誰も標準サイズから逸脱することに挑戦しない、ということと、今まで試した事の無い特別な特徴を持った楽器を注文する人が少ないからだと思います。 「食わず嫌い」なのだと思います。

 

Q6. 多くの読者がギターを色々と試奏していく内にますますどのギターが良いのか分からなくなってしまう様です。製作家の立場から、楽器店や工房でどのようにギターの音質や弾き易さをチェックしたら良いのか、アドバイスを頂けますか?

部分的に分けて見てみましょう。

楽器の仕上がり
良い楽器は適切な木材で組み立てられているべきです。よって、全てのパーツに於いて、切り口は完全に放射状であるべきです。木目は真っすぐで、楽器の軸上に対して平行であるべきなので、それを確認します。たまに「波(幹)」が木目を横切る事があります(美的面から木材を斜めに切った壮観な裏板をもつ美しい楽器がありますが、構造面の観点から見るとあまり最適ではありません)。

そのように、高品質な楽器は高品質な材料を選びます。 例えばネックにはエボニー、ナットやサドルには天然の骨などです。

楽器は細心の注意を払って仕上げられます。もしロセッタが手作りであれば、「フィレテアード(後板などに描かれた模様)」や楽器の結合部分、マシンヘッドなどの装飾部分も恐らく釣り合うものが施されているでしょう。

ラベルには興味深い情報が見つかる事を常に忘れがちです。真に手工製の高品質な楽器は製作者によって手書きで署名され認識番号が付けられています。

 

音について
音色はある意味主観的なものであるという考えから話を始めると、良い楽器とは遠達性が良く、音域状のバランスがとれていて、良いサステインを持つものだと思います。「外的」な認知可能な点を挙げるとすると、総じてこの様な楽器は軽量で、表面板が柔軟、ブリッジの先の弦の角度が鋭いです(訳者注:ブリッジやナット部分の弦の角度が鋭利な程弦の張力が表面板方向にも大きく分配される=効率 良く弦の振動が表面板に伝わる、と言われています)。

 

Q7. 顧客に対してアフター・サービスはありますか? 特に、高額なギターの購入について心配している人たちも多いと思われるのですが。

私の全てのギターは製作上の不都合に関するもの全てに無期限の保証がされています。

 

Q8. ブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)などの木材がますます入手困難になってきていますが、それはあなたのギター製作や完成したギターの品質にどのような影響があると思いますか?

私は木の種類によって品質が確定するとは考えていません。私の理解では、品質は製作設計によって決定されます。(ハカランダに限らず)他の様々な種類の木材を使って組み立てられた素晴らしい楽器が沢山あります。ある特定の木材によって得られる特定の音に対する好き嫌い、と言う事はありますがそれはとても主観的な問題です。

 

Q9. 21世紀に於いてギター製作というこの美しい伝統はどうあるとお考えですか?

良い質問です。良い音楽家がどんな工場生産のギターより手工製ギターを使う方が芸術をより深く究める事が出来る、と手工製作の価値を評価し続けてくれる事を切望しています。
しかしながら、スパニッシュ・ギターの国である我が国に、未だこの職業の明るい将来を確保すべくギター製作の公式な学校が無い事は残念です。21世紀の今日でさえ口承の伝統工芸なのです。