クラシック・ギター製作家インタビュー: エリアス・ボネット・モンネ(スペイン)

エリアス・ボネット・モンネ

今回のギター工房インタビューはスペイン、バルセローナのエリアス・ボネット・モンネさんです。

 

Q1. あなたの工房とその歴史についてお聞かせください。

全ての始まりは私がギターの(演奏の)勉強をしていた時に、楽器の音程に関するいくつかの問題を解決する為にギター製作家の助けが必要だった事に端を発しています。これがジャグエ兄弟との運命的な出会いをもたらしました。ラウル・ジャグエ(Raúl Yagüe)氏は私の注文を快諾し、ギターを完璧な状態にしてくれました。私達は良き友人となり、最終的にジャグエ氏にギターを注文するに至りました。はたして了承してくれるのだろうかと思っていたところ、大変驚いた事に彼の回答は「自らの手で自分のギターを製作してみたくないかい?もしそうなら私が教えてあげよう。」というものでした。

もちろんその提案に賛同しました。このようにしてラウル・ジャグエ氏のギターの世界への門戸が開かれ、彼のギター製作に対する情熱に感化されることになったのです。彼は私を弟子にしてくれましたが、我々は特に友人同士の間柄でした。

6年間ジャグエ兄弟の工房へ通いました。ギター製作家としての私の人生にとって大変重要な影響を与えてくれた人達がジャグエの工房を訪れました。ラウルはフアン・アントニオ・レジェス・トレス氏を紹介してくれました。彼もまた素晴らしい製作家で、私に彼の工房への門戸を開いてくれました。彼も私の良き友人です。二人の師匠の応援を背に2009年の3月に私自らの工房を開きました。

 

Q2. あなたにとって良い音のするギターとはどのようなものですか?またそれを獲得する為にどんな工夫をしているのですか?

この質問に答えるのは難しいです。私はギターを弾くとき、幸福感を与えてくれる何か主観的な物を感じます。いくつかのギターは魅力的に感じても、他のギターはそうでない事がありますが、他の人は別の印象を受けるかも知れません。

良いギターとはどんな客観的要素を持っているのか、私の目から見た要点は以下のものです。

  1. 倍音を発する高い能力。 ギターは演奏者が弦のポジションや撥弦の強さ、使う爪の量などによって音色を変化させる意図や要求に応える事が出来ないと行けません。 これは前述した要素によって、倍音構成が変化する事によって違った音色になるのです。
     
  2. 順応性。ギターはあなたの体にとって柔らかく敏感でないといけません。ギターの上から下、表面板から後板まで、全ての部分が振動するよう、木のどの部分にもテンションがかかっていてはいけません。
     
  3. チューニング。正しい音程を得る為にはブリッジを接着する時の修正が完全に正確でなければいけません。特に解放弦と第4ポジション(13〜16フレット)上の音を同時に弾いた時です。「大聖堂」の第一楽章を弾いてみるのは正しく補正されていないギターを見つける良い方法です。
     
  4. それから、言うまでもなく楽器は愛情を込めて製作されていなければいけません。私の場合、音量についてはあまり心配してませんが、遠達性には関心があります。私はスペインの伝統的な工法を引き継いでギター製作をしています。大部分はトレスから、それにほんの少しブーシェから受けた影響に私独自のものを加えたものです。私は爆音より良い遠達性を好みます。ギターはピアノではありません。ギターがピアノになる事を望むのは止めましょう。
     
  5. 良い木材の使用。ダブルトップやファイバー、カーボン、ケヴラーなどは駄目です。プラスチックをギターに組み込めば組み込む程プラスチックの音が鳴ります。

 

Q3. 弾き易いギターを製作する事について考えをお聞かせください。そして、その為にどんな工夫をされていますか?

ギターリストはギターを演奏する時に快適でなければいけません。それは通常、演奏家がギターの存在を忘れて音楽を奏でる事にのみ注力出来る状態の事です。それを得る為に、前述した全ての要素が可能な限り完璧になる様、製作家人生を通して努力するのみです。

 

Q4. 伝統的なフレンチ・ポリッシュ(セラック・ニス)や新しい方法(ラッカー、触媒)などの仕上げの方法について、あなたの考えをお聞かせください。

フレンチポリッシュ以外には興味がありません。

 

Q5. 640, 628 や 615mm などのショート・スケール・ギターに於いて、弾き易さ、設計、音質や音量の観点から、あなたの考えを聞かせて下さい。また、手の小さい人や女性ギタリストの増加によってそれらショート・スケールの需要は伸びていますか? 

ショート・スケールのギターは通常とても豊かで美しい音を持ちますが、楽器の音程補正のエラーや演奏者のチューニングの悪さがより露呈しやすいという短所があります。一般的に張りが柔らかく、それによってより美しい音になりますが、音圧の損失を伴います。

今までのところ、誰も手が小さすぎるということで私の楽器が弾きずらいと言った顧客は誰もいません。逆に、私の楽器を試奏した人は全て快適さや演奏のし易さに驚きます。実際、私の製作するギターの一部は日本へ輸出しています。私は日本の顧客が男性も女性も共に手が小さい事を知っています。普通女性の手は男性のそれよりも小さいですが、日本人の女性の手は更に小さいですから!!

 

Q6. 多くの読者がギターを色々と試奏していく内にますますどのギターが良いのか分からなくなってしまう様です。製作家の立場から、楽器店や工房でどのようにギターの音質や弾き易さをチェックしたら良いのか、アドバイスを頂けますか?

主観的にみて、ギターの第一印象はとても重要です。演奏してみて1秒で感じたフィーリングです。暫く弾き続けてみた後に、更に弾き続けたいと思わせる様な感じがあれば、それは良い兆候です。

客観的には、解放弦と第4ポジションを組み合わせて弾いた音(例えば大聖堂の第一、第二楽章を弾く)のチューニングが合うかどうか、ギターを演奏するのに異常な努力を強いなくても済むほど快適かどうか、 同一弦上で可能な限り全ての音を試してみて、音色が豊かかどうか、などです。

製作上の観点からは、仕上げが綺麗かどうか(特に内部)工作上の詳細をチェックして下さい。ギター製作家が楽器にどれだけ愛情を注ぎ込んだのかが見て取れます。

 

Q7. 顧客に対してアフター・サービスはありますか? 特に、高額なギターの購入について心配している人たちも多いと思われるのですが。

当然、顧客は如何なる必要なアフター・サービスを受けることができます。もし楽器が気に入らなかったので返品したい、と言うのであれば、それは受け付ける事は出来ません。顧客は購入を決断する前に必要なだけ試奏出来ますが、一旦持ち帰った後で気が変わったと言う理由での返品は受け付けません。楽器に何かの問題があった場合は話は別ですが、今まで一度もそのような事はありませんので、その可能性はとても低いです。

 

Q8. ブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)などの木材がますます入手困難になってきていますが、それはあなたのギター製作や完成したギターの品質にどのような影響があると思いますか?

全く影響はありません。私は決してハカランダを使った事がありません。ハカランダはどちらかというとギターの寿命に取って悪い木材です。湿気の変化で割れる傾向があり、不安定です。ハカランダと同じ、又はそれより良い音がし、輸出が管理されている代替木材は沢山あります。加えて、誰からもハカランダを使ったギターの注文を受けた事がありません。 私の場合、資源の枯渇が心配される木材を使用する事はありません。

 

Q9. 21世紀に於いてギター製作というこの美しい伝統はどうあるとお考えですか?

健全、強固で活気がある様に見えます。ヨーロッパの産業革命は手工業全般に大きなダメージを与えました。しかし幸運な事にこの業界は数年前から小さい規模で持ち直してきています。そして私はそれを祝っています。

コメント

楽しく読ませて頂きました。この製作家、初めて知りました。彼のぶれない姿勢に哲学をかんじますね。これからも楽しみにしています。

矢崎さん、コメントありがとうございます。我々ギターリストはあまり製作家達について考える事が少ないと思うのですが、彼らの人生や哲学を知る事でもっとギターが楽しくなると思うのです。これからも引き続き素晴らしい製作家達にインタビューして参りますのでこれからもよろしくお願いします!